2004年に公開され、主演の柳楽優弥氏がカンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を史上最年少で受賞した映画『誰も知らない』。是枝裕和監督は、この巣鴨子供置き去り事件の実話に着想を得て15年の歳月をかけて脚本を練り上げました。しかし、劇中の静謐でどこか透明感のある世界観と、現実に起きた出来事との間には大きな乖離が存在します。
実話において最も社会を震撼させたのは、末妹(三女)の死因です。映画では、椅子から落ちて衰弱死するという偶発的な事故のように描かれましたが、現実はあまりに無慈悲でした。長男の部屋はいつしか学校に通えない不良少年たちのたまり場と化しており、長男が止めるのも聞かず、仲間の中学生らが三女に対して執拗な集団暴行を加えたのです。結果として三女は脳内出血を起こして絶命し、パニックに陥った長男らは遺体をボストンバッグに詰め、埼玉県秩父市の山林に埋めました。
是枝監督自身も後のインタビューや手記で語っているように、映画は事件の残酷さをセンセーショナルに告発することではなく、「もしあの部屋に豊かな時間や子供たちなりの愛が存在したとしたら」という問いかけから制作されました。しかし、現実の事件を語る上では、このあまりにも凄惨な暴力と貧困の事実を見落としてはなりません。