連載当時からネット上の掲示板やSNSでは、「終盤のインフレに置いていかれ、初期の食材を差し替える尺が足りなかったのではないか」「グルメ界の食材で埋め尽くした方が最強感があったのではないか」という疑問や誤解が散見されました。しかし、作中の描写や公式設定資料集『美食屋四天王究極グルメガイド』の記述を精査すると、そうした推測が完全に的を外れていることが分かります。
作品世界において一貫して提示されていた大原則は、「捕獲レベルの高さ=食材の美味さではない」という点です。捕獲レベルとはあくまで「入手・捕獲の難易度」を示す指標に過ぎず、食べる人間にとっての感動や、舌を満たす至高の味わいとは完全に切り離されています。
例えばデザートに選ばれた「虹の実(捕獲レベル12)」は、IGO第1ビオトープで猛獣トロルコングの群れを掻い潜って手に入れた、トリコにとって「人生で初めてフルコース入りを決定した食材」でした。一口食べた瞬間に体中の細胞が歓喜に震え、涙を流したあの原体験こそが、トリコの美食屋としてのアイデンティティを形作っています。同様に「BBコーン(捕獲レベル30)」も、ウール大陸でバトルウルフの子・テリークロスと共に死線を越え、焚き火の前で巨大なポップコーンを貪り食った「分かち合いの原点」です。
もしトリコが捕獲レベル数千超のグルメ界モンスターの肉でこれらを上書きしていたなら、それは自らの歩んできた旅路と、その時々の感動を否定することと同義でした。数値という客観的ヒエラルキーに屈せず、主観的な「魂の歓喜」を最優先して初期食材を守り抜いた点にこそ、トリコという男の揺るぎない矜持が存在しています。