水族館で定番となっている「アシカショー」ですが、「アザラシショー」という演目を大々的に行っている施設は極めて稀です。この興行的な差を生み出している根底には、鰭脚類の骨格と前足の特徴が深く関係しています。
アシカ科に属する代表格であるカリフォルニアアシカは、極めて発達した鎖骨・肩甲骨まわりの筋群と、長く強靭な前足を持っています。陸上で上半身を持ち上げて直立に近い姿勢を保てるだけでなく、前足で自分の全体重(雄であれば200キログラム以上、雌でも70〜100キログラム前後)を軽々と支えられます。この強靭な筋骨格構造があるからこそ、ボールを鼻先に乗せてバランスを取ったり、前足だけで倒立したりといったアクロバティックな動作が実現するのです。
対照的に、ゴマフアザラシに代表されるアザラシ科の骨格は、完全に水中推進力へと最適化されています。前足は短く、指の間に水かきがあるものの、体重を支える強度は持ち合わせていません。その代わり、アザラシは推進力を「左右に振る後ろ足」から生み出します。アシカが前足をオールの如く羽ばたかせて「水中を飛ぶように泳ぐ」のに対し、アザラシは魚のように「尾部と後ろ足を左右にしならせて直進する」という泳ぎ方の違いがあります。
生態面においても、カリフォルニアアシカは沿岸の岩場に数百頭規模の巨大なコロニー(群れ)を形成して生活します。序列や協調性を重んじる社会性を持つため、トレーナーとの信頼関係を築きやすく、複雑な指示を理解する認知能力を発揮します。一方のゴマフアザラシは基本的に単独、あるいは母子単位で回遊する傾向が強く、警戒心が高いため、陸上で人間と複雑なチームワークを組む芸には解剖学的・行動学的に適していません。