刑務所や裏社会の隠語であった言葉が、なぜ一般の青少年にまで浸透したのか。その決定打となったのが、1980年代初頭から爆発的なブームを巻き起こしたヤンキー用語しゃばいのメディア露出です。
当時、『ビー・バップ・ハイスクール』や『湘南純愛組!』、さらには『今日から俺は!!』といった不良少年漫画が少年誌を席巻しました。作中でツッパリ少年たちが、喧嘩を恐れて逃げ出す相手や、警察・教師の顔色をうかがって日和る仲間を罵倒する決め台詞として「しゃばい真似すんじゃねえ!」「このしゃば僧が!」と連呼したことで、全国の中高生へ瞬く間に波及した経緯があります。
ここで登場したしゃば僧の意味は極めて明快です。「娑婆」に未熟な若者を指す「小僧(こぞう)」を掛け合わせた造語であり、「見かけばかり威勢がいいが、いざとなると腰が引ける臆病者」「気骨のないチンピラ」を指す強烈なレッテルでした。不良グループという過酷な上下関係において、仲間から「しゃばい奴」と認定されることは、グループ内での発言権を失い、男気コミュニティから追放されるに等しい恐怖を意味していました。
昭和から平成初期の不良少年たちにとって、喧嘩の強さ以上に重視されたのは「逃げない度胸」でした。自らの非行を正当化し、真面目に生きる一般生徒を見下すための防衛規制として、「しゃばい」という言葉は格好の精神的優位性を担保するツールとして機能したのです。