「変態」が性的なニュアンスを帯びるようになった背景には、19世紀末の西洋医学の導入があります。ドイツの精神医学者リヒャルト・フォン・クラフト=エビングの名著『性的精神病理(Psychopathia Sexualis)』が日本に紹介された際、「abnorme Geschlechtsempfindung」の訳語として「変態性欲」という専門用語が作られました。
この医学用語が次第に一般社会へと流出し、昭和初期のエログロナンセンスブームなどを経て、日常俗語としての「変態(あるいは略称のヘンタイ)」へと縮小・変容していった経緯があります。
ただし、近年の国際的な診断基準(DSM-5やICD-11)において、精神医学・心理学における定義は大きくアップデートされています。かつて「変態性欲」と呼ばれていたものは、現在では「パラフィリア(性的倒錯)」と客観的に呼称されます。さらに重要なのは、単に多数派と異なる性的嗜好を持っているだけでは精神疾患とはみなされず、「本人に強い苦痛があるか、あるいは他者に危害や同意のない侵害を加えているか」という機能障害の有無が診断の決定的な基準となっている点です。