物語を通じて最大の謎とされていたのが、主人公・黒木蔵人のバックボーンです。業界最大手の名門進学塾「ルトワック(旧フェニックス)」でトップ講師として君臨し、卓越した実績を残しながら、なぜ突如として中堅塾である桜花ゼミナールの地方校舎に転職したのか。その動機は最終盤で白日の下に晒されました。
黒木がかつてフェニックスを去った直接の引き金は、偏差値至上主義の過酷な競争の中で一人の教え子を精神的に追い詰め、家庭崩壊と受験失敗を招いてしまったという消えないトラウマにありました。合格実績のみを追求する大手塾のシステムに限界を感じた黒木は、夜間に貧困家庭や学習困難な子どもたちを無償で支援する補習塾「スターフィッシュ」を自費で立ち上げていたのです。
「桜花ゼミナール」で貪欲に生徒を集め、高額な講習やオプション講座を勧めていたのは、すべてこの無料塾「スターフィッシュ」の運営資金を稼ぎ出すためという側面がありました。拝金主義の仮面を被りながら、その実、教育格差の是正とすべての子どもの居場所作りに命を削っていた黒木の「二面性」こそが、読者を惹きつけてやまない魅力の本質でした。