「満員御礼が出ているのに、なぜ正面や砂かぶり席に空席が目立つのか」。SNSやネットの掲示板でも頻繁に投稿されるこの疑問には、大相撲という伝統興行ならではの3つの決定的な理由が存在します。
最大の要因は、「大相撲の興行時間の長さと観戦スタイルの違い」にあります。本場所は朝8時半頃の序ノ口の取組から始まり、結びの一番が終わる午後6時前まで約9時間にわたって行われます。購入したチケットは終日有効ですが、多くの観客のお目当ては幕内力士が登場する後半戦です。特に土俵入りが行われる午後3時45分前後までは、チケットを所持していても会場に来ていない、あるいは館内の売店や相撲博物館で時間を過ごしている観客が多数存在するため、中継画面では空席のように映ってしまいます。
2つ目の要因は、「維持員席(溜席)や相撲茶屋を通じたマス席の保有構造」です。土俵のすぐそばにある「溜席(通称:砂かぶり)」の多くは、相撲協会を支える維持員(タニマチや後援者)のために年間を通して確保されています。また、1階のマス席の多くは古くからの歴史を持つ「相撲案内所(相撲茶屋)」を通じて法人企業や後援会に販売されています。これらの席は取引先の接待や福利厚生として利用されることが多く、購入されていても「仕事の都合で遅れて来る」「急用で行けなくなったが席を誰にも譲らなかった」といった理由で、終日誰も座らない空白が生まれる構造になっています。
3つ目は、近年のチケット流通における「直前キャンセルやリセール、転売の売れ残り」です。チケット自体は興行前に売れていても、体調不良による直前の不参加や、不正転売目的で購入されたチケットが買い手を見つけられずに破棄されることで、物理的な空席として取り残されてしまいます。つまり、「空席がある=客が入っていない」のではなく、「チケットは売れているが人が座っていない」状態が大半を占めているのです。