愛犬家がサマーカットを後悔する最大の理由が、バリカンを入れた後に被毛が元の状態に戻らなくなるトラブルです。特にポメラニアンやシベリアンハスキー、スピッツ系の犬種で多発するのが「毛刈り後脱毛症(アロペシアXや毛周期停止)」と呼ばれる病態です。
犬の毛包には「成長初期」「成長期」「退行期」「休止期」のサイクル(毛周期)が存在します。バリカンによる強い刺激や急速な体表温度の低下が引き金となり、毛根が長期間「休止期」で停止してしまう現象が臨床現場で確認されています。この状態に陥ると、以下のような深刻な変化が生じます。
- 完全な脱毛・まだらな発毛:刈り上げた背中や腰回りがツルツルのまま産毛すら生えなくなる、あるいは局所的にしか生えない。
- 毛質の不可逆的な変化:元の艶やかなトップコート(上毛)が失われ、パサついたフェルト状のアンダーコート(下毛)だけが伸びて毛玉ができやすくなる。
- 色素沈着と皮膚の硬化:紫外線に長期間晒された地肌が黒ずみ、ゴワゴワとした質感に変色する。
一度毛周期が停止すると、ホルモン治療やサプリメント投薬を行っても元の美しい被毛に戻るまでに数年を要するケースがあり、最悪の場合は生涯そのままになる事例も報告されています。「一度短くしただけで二度と元の姿に戻らなかった」という悲痛な声は、トリミングサロンの現場でも後を絶ちません。