三島の原作は、映画界にも計り知れない爪痕を残した。その白眉が、1958年に公開された市川崑監督による『炎上(1958年映画)』である。主演の市川雷蔵が演じた若き修行僧・溝口の狂気と純粋さは、従来の時代劇スター像を粉砕し、歴史ドラマ・純文学映画における最高峰の演技として今なお語り草となっている。
宮川一夫による圧倒的なモノクロームの陰影美と、大胆な構図。映画は小説の観念的な世界を冷徹なリアリズムへと着地させ、焼け落ちる金閣の姿を通して戦後日本の喪失感を完璧に映像化した。純文学が映画という別メディアと切り結び、奇跡的な化学反応を起こした記念碑的一作である。