荒木飛呂彦作品の大きな魅力である洋楽のネーミング。チープ・トリックのルーツは、1970年代後半に一世を風靡したアメリカのパワーポップ/ハードロックバンド「チープ・トリック(Cheap Trick)」にある。1978年の名盤『Cheap Trick at Budokan』で世界的な成功を収めた彼らの音楽は、ポップでキャッチーなメロディの裏に、どこか歪でアイロニカルな狂気を孕んでいた。
スタンド「チープ・トリック」の言動にも、その音楽性が色濃く投影されている。宿主の耳元で囁き続ける「背中を見せてよ」「ねえ、見せて」という甘ったるく執拗な声。圧倒的な破壊力ではなく、相手の精神を内側から削り取っていくチープ(安っぽい)な言葉の暴力。音楽的な遊び心と心理サスペンスの融合は、荒木飛呂彦という作家の特異な美学を雄弁に物語っている。