作中で最も複雑な陰影を帯びているのが、一見すると親切な優等生として登場する東直樹(東くん)だ。頭脳明晰な兄と比較され、母親からの条件付きの承認に飢えていた彼は、ボロボロになったしずかちゃんを庇護することで己の存在価値を証明しようとした。
まりなちゃんの遺体を前にしたとき、彼が選択したのは警察への通報でも大人へのSOSでもなく、死体の隠蔽と東京への逃避行だった。自分が「惨めな少女を救う唯一の英雄」であり続けるための狂気。そこには純粋な好意だけでなく、己のコンプレックスを埋めるための身勝手な欲望が透けて見える。
ループを繰り返す中で東くん自身も正気を失い、タコピーの道具を使って都合の悪い記憶を消去しようとする。彼もまた、歪んだ家庭環境によって心を破壊された被害者であり、同時に加害者であった。