古くから日本には「怖い夢は人に話すと正夢にならない(吉となる)」という民間伝承が存在します。一方で「午後に話すと現実になる」「人に話すと災いを移してしまう」といった真逆の言説も飛び交っており、どちらを信じるべきか迷う人も少なくありません。
文化人類学および心理カウンセリングの観点からこの迷信を紐解くと、極めて理にかなったメカニズムが見えてきます。
日本語の「話す」は「放す(離す)」に通じており、心の中に渦巻く得体の知れない恐怖を言語化して他者に開示する行為は、精神医学でいう「カタルシス効果(情動浄化)」そのものです。恐怖体験を言葉にして外に出すことで、脳の認知機能が客観性を取り戻し、扁桃体の興奮を鎮静化させる働きがあります。「午前中に話す」という作法も、目覚めてから早い段階で不安を外在化させ、その日一日のパフォーマンス低下を防ぐための生活の知恵であったと解釈できます。