車両が走行中に停止するまでのプロセスは、ドライバーの知覚・判断という「人間側のプロセス」と、ブレーキ装置と路面摩擦による「物理側のプロセス」に明確に分かれます。この境界線を曖昧に捉えていることが、重大な見落としを生む温床です。
まず、ドライバーが前方の危険(歩行者の飛び出しや先行車の急制動など)を視覚で認識し、「ブレーキを踏むべきだ」と判断してアクセルペダルからブレーキペダルへ踏み替え、ブレーキが実際に効き始める直前までに車両が進む距離を「空走距離」と呼びます。これに対し、ブレーキパッドがディスクやドラムを挟み込んで制動力が立ち上がり、車両が完全に停止するまでに走行する距離が「制動距離」です。
この2つの距離を合計したものが、車両が完全停止するまでに必要なトータルの距離である「停止距離」となります。
停止距離の計算式:
停止距離(m) = 空走距離(m) + 制動距離(m)
空走距離の長さを決定づける最大の変数は、ドライバーの反応時間の平均です。一般に、危険を認知してからブレーキを踏み込む「知覚・判断時間」と、実際にペダルを踏んで制動が立ち上がる「ブレーキペダル踏み込み時間(踏替え時間+踏み込み時間)」を合わせた反応時間は、健康で注意を集中している通常ドライバーで約0.75秒〜1.0秒と算出されます。時速60kmで走行している場合、車両は1秒間に約16.7メートル進むため、ブレーキが効き始める前にすでに約13〜17メートルもの距離を惰性で疾走している計算になります。