「夜は美しい青い光なのに、昼間見に行ったら海がドロドロの赤茶色に染まっていてショックを受けた」という声を現場で耳にすることがあります。実は、昼間に海面を赤く濁らせる「赤潮」の正体の多くが夜光虫そのものです。夜光虫は体内に微細なオレンジ色や赤色の色素(カロテノイド系色素)を蓄えているため、海面付近に何億匹と密集すると、まるでトマトスープを流し込んだような赤褐色〜サーモンピンク色に海が変色します。
ここで気になるのが「人体や魚介類への毒性」です。有毒プランクトン(カレニア・ミキモトイなど)による赤潮は貝毒や魚の大量死を引き起こす猛毒を持ちますが、夜光虫自体は毒素(プランクトン毒)を産生しません。そのため、夜光虫が群生している海水を誤って触ったり、飛沫を浴びたりしても、直ちに皮膚炎や重篤な中毒症状を引き起こす心配はありません。
ただし、生態系への影響がゼロというわけではありません。夜光虫が異常増殖した後に寿命を迎えて一斉に死滅すると、海底でバクテリアによる死骸の分解が進み、海水中の溶存酸素濃度が急激に低下します。その結果、「貧酸素水塊」が形成され、逃げ場のない養殖魚やアサリなどの底生生物が窒息死に至る経済的・環境被害が発生することがあります。美しい光を放つ存在でありながら、水産現場では警戒の対象となる二面性を持ち合わせているのです。