有元の代名詞といえるのが、古い壁画のようなザラリとした風合いを持つ独自のテンペラ技法です。彼はキャンバスや板の上に石膏や白亜の下地を塗り重ね、引っかき傷をつけたり粗い布を押し当てたりして、あらかじめ人工的な「風化」を施しました。その上に、西洋の古典絵具であるエッグ・テンペラと、日本画の顔料である岩絵具、さらには油彩を重層的に塗り重ねるという前代未聞の技法を確立したのです。
この重厚かつ乾いたマチエール(絵肌)について、本人は生前の手記で「使い古された道具や、風雨にさらされた石仏のように、時間を経たものだけが持つ無口な美しさを画面に定着させたい」という趣旨の言葉を遺しています。時間そのものをキャンバスに定着させようとする試みこそが、有元作品に漂う懐かしさと崇高さの根源です。
さらに見逃せないのが「音楽」との深い結びつきです。ヴィヴァルディやテレマンなどのバロック音楽を終生愛した有元は、自らリコーダーを手作りして演奏するほどの愛好家でした。作品に登場する人物たちは、楽器を手に持ち、あるいは宙に舞う花びらや小石を静かに見つめています。物語を語りすぎず、ただそこに静寂とポリフォニー(多声音楽)のような調和が存在する世界観は、見る者の内面に深い安らぎを呼び覚まします。