ハライチの賞レース史を語る上で、最も劇的であり、同時に最も議論を呼んだのが2021年12月19日の「ラストイヤー(結成15年目)」の戦いです。準決勝で敗退を喫したふたりは、極寒の六本木ヒルズアリーナで行われた敗者復活戦へと回ることになりました。
テレビ局関係者や当時の会場にいた観覧客の証言によると、敗者復活戦におけるハライチの気迫は異様なものがありました。披露したネタは、岩井が提示する言葉に対して澤部がいつものようにノリでボケようとするものの、岩井が頑なにそのターンを渡さず、延々と澤部を焦らし続けるという「ノリボケの脱構築漫才」でした。
「早く乗らせろよ!」「ボケさせろ!」と絶叫し、全身から汗を吹き出しながら舞台上を駆け回る澤部の野生的なパッションと、冷酷なまでにそれをコントロールし続ける岩井の不気味な佇まい。このコントラストが、全国の視聴者から圧倒的な支持を集めました。結果として、投じられた全投票数の中で群を抜く39万1,438票を獲得。2位に10万票以上の大差をつけて決勝への切符をもぎ取ったのです。
しかし、ドラマはそこでは終わりませんでした。その数時間後、テレビ朝日本社のスタジオへ移動して挑んだ決勝本番。敗者復活戦と同じシステムをベースにしながら、岩井はさらにテンポを落とし、澤部へのフラストレーションを溜め込ませる構成を選択しました。制限時間4分のうち、実に3分以上もの間、澤部にまともなノリボケをさせないという、賞レースのセオリーを根底から覆す大博打に出たのです。
結果は9位。審査員の松本人志は「澤部のストレスが客席のストレスになってしまった」と鋭い演芸批評を口にしつつも、その挑戦的な姿勢には一定の理解を示しました。放送直後、ネット上では「ラストイヤーで自分たちのシステムをぶち壊した最高にカッコいい漫才」「いや、いつものテンポ良いノリボケが見たかった」と、賛否両論の嵐が吹き荒れました。これこそが、ハライチというコンビが抱え続けてきた「予定調和への反逆」が極限に達した瞬間でした。