1990年代半ば、本作の社会現象化と反比例するように激化したのが、PTAの子供に見せたくない番組とクレームの猛烈な攻撃でした。
日本PTA全国協議会が毎年実施していた「親が子どもに見せたくない番組」アンケートにおいて、『クレヨンしんちゃん』は常に『志村けんのだいじょうぶだぁ』『ロンドンハーツ』などと並び、ワースト1位から3位の指定席を争っていました。PTA側の抗議理由は明快でした。「子どもが親に対して『みさえ』と呼び捨てにする」「人前でズボンを下ろして『ゾウさん』を真似する」「大人の女性に下品なナンパをする」という、子どもの模倣行為に対する親世代の強い恐怖心です。実際、当時の幼稚園や保育園では「しんちゃん禁止令」が出されるケースが全国で頻発しました。
さらに、時代の空気や社会情勢の激変によって、再放送や動画配信プラットフォームから姿を消したクレヨンしんちゃんのお蔵入り放送禁止回も複数存在します。
たとえば、1995年の地下鉄サリン事件直後に社会的不穏配慮から放送が見送られた回や、権利関係および特定のパロディ描写が過激すぎてビデオ化されなかったエピソード(初期の「桃太郎のおにごっこだゾ」など)、さらには現在の人権意識や差別的表現の基準に抵触するセリフが含まれた初期回は、テレ朝動画やサブスクリプション配信でもカット、あるいは欠番扱いとなっています。現場のクリエイターたちは、局の上層部やスポンサーからの「表現を抑えてほしい」という要請と、「毒気を抜いたら作品が終わる」というプライドの狭間で、常に綱渡りの演出を強いられていたのです。