ネット上やファンの間では長年、「マギーを敬遠して自分と勝負を選んだ相手ベンチの采配に舐められたと感じて激怒した」という解釈が語られがちです。しかし、後年の特番インタビューや自著・引退手記などで語られた亀井本人の述懐は、まったく異なる感情の葛藤を明かしていました。
「怒っていたのは相手に対してではありません。2打席連続でマギーが歩かされてチャンスをもらいながら、どちらも凡退してチームを負けの淵まで追い込んでいた自分自身に対して、腹が立って仕方がなかったんです」
ネクストバッターズサークルでバットを握りしめ、地面を睨みつけていたあの凄まじい表情は、外敵への敵意ではなく、不甲斐ない自分に対する凄絶な怒りでした。「ここで凡退したらチームは負ける。ファンにも、今日投げたピッチャーたちにも顔向けができない。打てなかったら命を取られるんじゃないかという恐怖すらあった」と語るほどの心理的パニックのなか、亀井は打席へと向かいました。
益田直也が投じた3球目、内角寄りのストレートを一閃した瞬間、打球は美しい放物線を描いてライトスタンド上段へと消えていきました。スタンドが地鳴りのような歓声に包まれるなか、打った亀井は両手を突き上げることもなく、下を向いたまま涙を溢れさせました。三塁ベースを回る頃には目頭を押さえ、ヘルメットを脱ぐこともできないほど嗚咽し、ホームプレートを踏んだ瞬間にはチームメイトの胸の中で崩れ落ちるように泣き崩れたのです。