キンチョールをはじめとする殺虫剤ラインナップでは、個性派の男性俳優やタレントによる名セリフが数多く生まれました。テレビが最大の娯楽だった時代、金鳥の放つフレーズは瞬く間に学校や職場で模倣され、国民的な共通言語となっていきました。
1980年代、郷ひろみが真っ赤な衣装でハエの着ぐるみを前にポーズを決めた「ハエ・カ・カ・カ・ハエ」や、研ナオコが独特の脱力感で放った「トンボリ、ハエ」は、言葉の意味を超越した音の快感を提示しました。論理的な説明を排し、リズムと視覚のインパクトだけで「キンチョール=害虫退治」を直感させる鮮やかなアプローチでした。
そして1990年代、広告史に燦然と輝く金字塔となったのが、大滝秀治と岸部一徳によるキンチョールのCMです。薄暗い板前割烹の座敷のような場所で、大滝秀治が重々しく「ルー、おいる」と呟き、岸部一徳が冷ややかに応じる。商品の名前すら正確に言わないこのシリーズは、「つまらん! お前の話はつまらん!」という大滝秀治の怒声とともに、視聴者の腹筋を崩壊させました。名優同士の息詰まるような「間」の取り合いは、もはや上質な不条理演劇の領域に達していました。
また、防虫剤分野では、もたいまさこと木野花が主婦の日常を演じた「タンスにゴン」の「亭主元気で留守がいい」が空前のブームを巻き起こしました。1986年の流行語大賞を受賞したこのワンフレーズは、バブル経済へと向かう日本社会における家庭環境や主婦層の心理を恐ろしいほど的確に射抜いており、単なるCMコピーを超えた社会批評として今なお語り継がれています。