音楽賞の選考において常に付きまとう「なぜあの歌手が選ばれたのか」という疑問に対し、最優秀歌唱賞は極めて明瞭な回答を持っています。最優秀歌唱賞 選考理由の根底にあるのは、録音物としての音源ではなく「生のステージでどれだけの歌唱を成立させられるか」という実演審査の観点です。
審査を行う日本レコード大賞審査委員会は、新聞社や通信社の音楽担当記者、音楽評論家、放送関係者などによって構成されています。選考関係者の証言によると、本賞の議論においてはチャートの順位や所属レーベルの政治的力関係よりも、「ライブツアーでの歌唱実績」「テレビ生放送でのパフォーマンスの安定度」「母音の発声や子音の処理といったボーカルの基礎技術」が徹底的に審査対象となります。
例えば、過去に大ヒットシングルを連発していながら大賞を逃したポップスシンガーが、翌年に最優秀歌唱賞を受賞する事例が散見されます。これは、審査員団が「大衆現象としてのヒット」とは明確に切り離し、「1人の声楽家・表現者としての到達点」を評価した結果です。商業主義に傾倒しがちな年末の音楽特番において、職人的な実力者を正当に顕彰するセーフティーネットとしても機能しているのが日本レコード大賞 審査基準の実態です。