「製作の時間を設けても、1歳児が椅子に座っていられるのはせいぜい5分。それなのに、こいのぼり製作だけは別人のように集中して手を動かし続ける光景を何度も目にしてきました」――都内認可保育園で乳児リーダーを務めるベテラン保育士は、現場の連絡帳や指導記録を振り返りながらこう語ります。
保育現場において、数ある春の行事の中で乳児クラスこいのぼり人気理由が際立っている背景には、1歳児特有の発達段階との見事な合致があります。1歳0か月から1歳11か月の時期は、ジャン・ピアジェの発達心理学における「感覚運動期」から象徴機能が芽生え始める過渡期にあたります。子どもたちは「自分の身体の動きが外界に物理的な変化をもたらす」という現象そのものに強い快感を覚えます。腕全体を大きく動かして紙に触れる、親指と人差し指でつまんだシールが台紙にくっつく、手のひらに塗られた絵の具がスタンプのように転写される――これらはすべて、子どもにとって「世界を自らの手で変える実験」なのです。
単なる季節の飾り作りにとどまらない、本質的な1歳児こいのぼり製作ねらいは以下の3点に集約されます。
- 身体・微細運動の発達:親指と他指を向かい合わせてつまむ「橈側母指対立(とうそくぼしたいりつ)」の促し、手掌全体の圧覚刺激。
- 自己効力感の芽生え:「自分の動作によって痕跡が残った」という直接的な因果関係の認識と達成感。
- 季節感と文化への親しみ:風になびくこいのぼりの形状や色彩を通じた、視覚・触覚的な環境への興味関心の拡張。
大人が用意した枠組みに無理やり当てはめるのではなく、子どもの「もっと触りたい」「試したい」という原初的な衝動を制作工程の中に正しく配置することこそが、飽きさせずに熱中を引き出す決定的な境界線となっています。