ネット上の掲示板やSNSでは「呉市の家は捨て値で投げ売りされている」といった言説が目立ちます。なぜそこまで極端な安値物件が溢れるのか。その背景には、呉市の歴史と地形がもたらした構造的な問題が潜んでいます。呉市不動産が格安の理由を現地取材に基づき3つの視点から掘り下げます。
1. 車両進入不可の急傾斜地と「再建築不可」の壁
呉市はすり鉢状の地形をしており、平地が市街地全体のわずか約2割程度しかありません。近代以降の急速な人口急増に伴い、本来は宅地に向かない急峻な斜面を切り拓いて無数の住宅が建てられました。その結果、現在でも両城地区や宮原地区などを中心に、「軽自動車はおろか原動機付自転車すら上がれない細い階段」を数十段から百段以上登らなければ辿り着けない家が多数現存します。
こうした呉市の坂道物件を購入する際の注意点として最大のネックとなるのが、建築基準法第42条で定められた「幅員4メートル以上の道路に2メートル以上接道していなければならない」という接道義務を満たしていない点です。これにより既存の建物を解体しても新たな家を建てられない「再建築不可物件」となり、担保価値がつかないため銀行の住宅ローンも原則として通りません。これが「格安」の最大のカラクリです。
2. 土砂災害ハザードマップ(特別警戒区域)の指定リスク
呉市を語る上で避けて通れないのが、平成30年7月豪雨をはじめとする度重なる土砂災害の記憶です。呉市の山肌を形成する風化花崗岩(マサ土)は、長雨によって極めて崩れやすい地質特性を持っています。呉市が公開している最新の呉市土砂災害ハザードマップを確認すると、山裾の広範なエリアが「土砂災害警戒区域(イエローゾーン)」や、建築物の構造規制が伴う「土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)」に指定されています。
レッドゾーン内に位置する木造中古戸建ては、資産価値が極めて低く評価されるだけでなく、将来的な増改築や建替え時に高額な鉄筋コンクリート造の擁壁設置などを義務付けられる場合があります。豪雨時の避難リスクや心理的負担も重なるため、安値でなければ買い手がつかない現実があります。
3. 解体費用の高騰と「負動産」処分売りの加速
高齢化率が広島県内でも上位クラスに位置する呉市では、親世代が亡くなり相続したものの、誰も住まない実家が放置されるケースが急増しています。「古家を解体して更地にして売りたい」と考えても、前述の通り重機やトラックが横付けできない階段立地では、手壊し解体と人手による廃材搬出を余儀なくされます。一般的な平地であれば150万〜200万円程度で済む木造解体工事が、傾斜地では400万円から600万円以上に跳ね上がることも珍しくありません。「解体する資金がないため、土地代マイナスの感覚で数十万円で投げ売りする」という相続人の悲鳴が、激安中古物件の供給源となっています。