私たちが「右手を挙げよう」と決意した瞬間、最初に電気シグナルを発するのは大脳の中心前回に位置する大脳皮質運動野(ブロードマンの脳地図4野)です。ここには「ベッツの巨大錐体細胞」と呼ばれる大型の神経細胞が整然と並び、身体各部位の筋肉に対応した精密な機能局在(ホムンクルスの小人)が描かれています。
大脳皮質運動野で発生したインパルスが、末梢の筋肉へ到達するまでの随意運動伝導路メカニズムの基幹を成すのが皮質脊髄路です。その走行ルートを立体的に辿ると、脳の深部から脊髄へと至る精巧な一本道が見えてきます。
運動野の神経線維は、大脳白質内で「放線冠」と呼ばれる扇状の束を形成して下行し、大脳基底核と視床に挟まれた狭いスリットである内包後脚へと集約されます。臨床現場の神経内科医が「内包後脚は脳内最大のボトルネック」と表現するように、全身の運動線維がミリ単位の狭い空間に高密度で密集しています。そのため、この部位に内包後脚脳梗塞の症状が生じると、ごく小さなラクナ梗塞であっても感覚障害を伴わない完全な片麻痺(純粋運動軽快麻痺)が突如として完成します。
内包後脚を通過した線維束は、中脳の大脳脚(中央約3/5)を経て、橋の縦束を通り抜け、延髄前面の隆起である「錐体」へと進入します。この延髄の錐体を通ることから「錐体路」という名称がつけられました。そして最終的に脊髄へと下行し、筋肉へ直接指令を出す前角細胞(下位運動ニューロン)とシナプスを形成してバトンを渡します。