佐村河内守氏の名が世に広く知れ渡るきっかけとなったのは、1990年代後半のゲーム音楽でした。独学で作曲を学んだと称し、人気ゲームソフト『鬼武者』のオープニング曲「交響組曲 RISING-SUN」を手掛けたことで脚光を浴びます。その後、「完全に耳が聞こえない全聾の作曲家」という劇的なプロフィールとともに発表された『交響曲第1番 HIROSHIMA』は、クラシック作品としては異例の18万枚を超える大ヒットを記録しました。
NHKをはじめとする大手メディアは特集番組を相次いで放映し、被爆2世という重厚な背景も相まって、彼は一躍「現代のベートーヴェン」として国民的称賛を浴びる存在となりました。しかし、その輝かしい名声の裏には巨大な嘘が隠されていました。
事態が急転したのは、2014年2月、ソチ冬季五輪の開幕直前のことです。当時、桐朋学園大学の非常勤講師を務めていた音楽家の新垣隆氏が週刊誌への手記と緊急記者会見を通じ、「18年間にわたり佐村河内氏のゴーストライターとして楽曲を作曲していた」と電撃告白しました。フィギュアスケートの高橋大輔選手がショートプログラムで使用予定だった『ヴァイオリンのためのソナチネ』も新垣氏の作品であることが判明し、社会全体を揺るがす大スキャンダルへと発展したのです。