読者が最も固唾をのんで見守っているのは、「伝説のエース・上杉達也が、いつ、どのような形で画面上に現れるのか」という問いだ。『タッチ』の物語が完結して数十年が経過した明青学園において、達也の存在感は単なる過去の栄光にとどまらない。校長室にひっそりと飾られた写真、あるいは誰もいない夏のグラウンドに漂う気配のように、作品全体の空気を密かに支配し続けている。
作中で彼の名が直接語られる機会は、意図的なまでに絞られている。しかし、要所で挿入される回想や、古参の登場人物たちがふと見せる遠い目の演出は、彼が今も世界のどこかで確かに生きているというリアリティを強く滲ませる。現在の物語展開において、主人公たちが甲子園という目標に近づけば近づくほど、かつてそこへ駆け抜けた「上杉達也」という巨大な影はより鮮明さを増す。直接の姿を描くというファンサービスを選ぶか、あえて描かない美学を貫くか。あだち充のペン先に、アニメ業界からも熱い視線が注がれている。