東京都港区元赤坂の目抜き通りから一本入った場所に、豊川稲荷東京別院はある。赤坂見附駅から歩いてわずか数分という立地でありながら、門をくぐると空気の質がガラリと変わる。まず知っておくべきは、ここが神社ではなく仏教の伝統に根ざした寺院であるという事実だ。本尊として祀られているのは、白い狐に跨った天部の神仏である吒枳尼天(だきにてん)。願望成就や商売繁盛の神として広く親しまれているが、境内の一角にたたずむ「叶稲荷(かのういなり)」こそが、悪縁切りの聖地として知られる場所だ。
叶稲荷の前に立つと、びっしりと納められた絵馬が目に入る。そこに書かれているのは、他者への恨みつらみではない。自分を苦しめる人間関係や自虐的な思考パターンと本気で別れを告げようとする、参拝者の悲壮なまでの決意だ。因縁を断ち切る力があまりに強烈であることから、時に都市伝説めいた噂も流れる。しかし本質は決して恐怖ではなく、悪縁を削ぎ落とすことでしか手に入らない真の縁結びへの道筋を綺麗に整えることにある。