政権の中枢で「影の権力者」と恐れられた男は、一体いかなる思考で危機を乗り越えたのか。関係者の新たな回想や未公開証言を紐解くと、メディアの表舞台には決して出なかった冷徹なまでの洞察と、極秘の政治工作が浮き彫りになる。
とりわけ1990年代末、金融危機と政局の混乱が同時に押し寄せた際、裏舞台で繰り広げられた水面下の折衝は凄絶を極めた。野中広務が下した決断は、単なる党利党略にとどまらない。政権の命運だけでなく、日本経済そのものの崩壊を食い止めるための冷徹な現実主義に基づいていたのだ。当時、自民党内で反目していた対立勢力とさえ手を取り合い、自公連立という巨大な政治基盤を構築した背景には、妥協を恐れぬ凄みがあった。
元秘書や側近たちの証言によれば、執務室の電話は深夜まで鳴り止まなかったという。時に相手の弱みを握り、時に相手の悲願を叶えることで懐に飛び込む。知られざる政治史の真相は、権力の恐ろしさと同時に、情念をエネルギーに変えて国を動かした一人の人間くさい政治家のドラマを物語っている。