事件当夜、ホテル客室へと向かうエレベーターホール前のカメラには、大きなスーツケースを携えた人物と被害男性の姿が収められていた。容疑者が身にまとっていた大きめの衣装や帽子のシルエットは、性別や年齢を容易に特定させない巧みな偽装に満ちていた。フロント前のすれ違い様で見せたわずかな仕草、視線を低く保ち続けた独特の歩行姿勢。それらはすべて、後続の捜査を撹乱するために計算された動作だった可能性が高い。
退室時の動きはさらに常軌を逸していた。入室時とは打って変わって一人で客室を後にした容疑者は、膨らんだスーツケースを引行しながら、極めて平然とした足取りで通路を歩み去っている。慌てふためく様子や焦燥感は一切見られない。この冷酷なまでの平静さが、防犯カメラ映像解析を最初に行った捜査員らに強い恐怖感と異常性を印象付けたという。