京塚昌子の魅力は、単なる「優しい母親」だけにとどまりません。1976年に放送された橋田壽賀子脚本の名作ドラマ『となりの芝生』では、それまでのイメージを一変させるような複雑な家庭環境のなかで、圧倒的なリアリティを持った演技を披露しました。
嫁姑問題の生々しい対立を描いた同作において、京塚昌子が見せた機微に富んだ表情と佇まいは、視聴者に強い衝撃を与えました。日常の些細な言動から生じる人間のエゴや孤独、そして家族ゆえの難しさを、大仰な誇張なしに演じ切るその技量は、文学座仕込みの確固たる演技力があったからこそ可能だったと言えます。
単なる善良なキャラクターに安住せず、人間の業の深さまでをも表現し尽くした京塚昌子。彼女が橋田壽賀子や石井ふく子の作品群で果たした役割は、日本のテレビドラマ史におけるひとつの到達点でした。