毛のない犬の存在を知ったとき、多くの人が真っ先に抱くのが「なぜ毛が生えてこないのか」という疑問です。生物学的な結論から言えば、ヘアレスドッグは人為的な毛刈りや病気ではなく、外胚葉形成不全を引き起こす特定の遺伝子変異によって自然発生的に誕生しました。
犬の遺伝子研究において、古代から存在する多くのヘアレス犬種(ショロイツクインツリやチャイニーズ・クレステッド・ドッグなど)は、第17染色体に位置する「FOXI3遺伝子」の変異(優性遺伝)を持っていることが判明しています。このFOXI3遺伝子は、受精卵が成長する過程で皮膚・被毛・歯・汗腺などの外胚葉組織を形成する司令塔の役割を果たしています。この遺伝子が変異することで、毛包が正常に発達せず、結果として被毛が形成されません。
一方で、FOXI3遺伝子による無毛化は「致死遺伝子」としての側面も持ちます。無毛の遺伝子を2つ(ホモ接合体)受け継いだ受精卵は母胎内で早期に吸収されてしまい、生まれてくることができません。そのため、現在生存している古代系ヘアレスドッグはすべて「有毛遺伝子」と「無毛遺伝子」を1つずつ持つヘテロ接合体です。同じ母犬から生まれた兄弟の中に、必ず全身に毛が生えた個体(パウダーパフなど)が一定割合で混ざるのはこの遺伝的メカニズムが理由です。
なお、近代にアメリカで誕生したアメリカン・ヘアレス・テリアは例外で、「SGK3遺伝子」の劣性遺伝による無毛化であるため、歯の欠損がなく、両親が無毛であれば生まれる子犬は100%無毛になるという独自の特徴を持っています。