材料が揃ったところで、最も職人技の差が出る「混ぜ」と「冷却」のプロセスに入ります。ここでの手際の良さが、米の表面に美しい光沢(照り)を与え、一粒一粒がパラリとほどける理想の食感を決定づけます。
まず、炊き上がったご飯を飯台(すし桶)、または大きめのボウルへ移します。飯台を使う場合は事前に固く絞った濡れ布巾で拭き、適度な湿り気を与えておくことでご飯の張り付きを防ぎます。ご飯を一箇所に山盛りにせず、全体へ平らに広げたら、合わせ酢をしゃもじを伝わせながら全体へまんべんなく回しかけます。
混ぜる際、絶対にやってはいけないのが「しゃもじを寝かせてご飯を押し潰すように練る」行為です。しゃもじの刃を垂直に立て、「漢字の『八』の字を書くように切る」動作を素早く繰り返します。左手で容器を少しずつ回しながら、底のご飯をすくい上げては切る動作を約30〜40秒でテンポよく完了させます。
全体に合わせ酢が行き渡った直後に登場するのが「団扇(うちわ)」です。ここで一般的に広く信じられている「ご飯を早く冷やすために扇ぐ」という認識は、半分正解で半分間違いです。科学的な主目的は、「風を送ることで米表面の水分を一気に気化させ、蒸発熱を奪うと同時にデンプン膜を固定化してツヤを出すこと」にあります。
したがって、合わせ酢を混ぜている最中に扇いではいけません。混ぜ終わって全体に酢が行き届いた瞬間に、一気に強めの風を当てて余分な水分を飛ばします。裏返して同様に風を当て、人肌(約36〜38℃)まで温度が下がったら即座に扇ぐのを止め、固く絞った清潔な濡れ布巾を被せて乾燥を防ぎながら出番を待ちます。