SNSや動画プラットフォームでは、超大型犬にまつわる誇張された言説が定期的に拡散されます。その最たる例が「チベタン・マスティフ神話」です。
かつて中国の富裕層バブルにおいて「1頭数億円で落札された」「トラやライオンを噛み殺す幻の神犬」といったセンセーショナルな見出しが世界中を駆け巡りました。しかし、動物行動学および近年の現地調査データは、そうした商業的な煽りを冷静に否定しています。
チベタン・マスティフはチベット高原の厳しい気候に適応した優れた家畜護衛犬(LGD)であり、オオカミやユキヒョウなどの捕食者から群れを守る警戒心と防衛力を持っています。しかし、体格面で見れば体重45〜70kg程度であり、イングリッシュ・マスティフのような100kg級のメガドッグに比べると一回り小柄です。中国国内での投機的ブームが終焉した後は大量の放棄が社会問題化し、現在では「適切な訓練なしでは都市部で飼育できない、強いテリトリー意識を持つ原始的使役犬」という極めて実務的な評価に落ち着いています。
また、「体が大きい犬はすべて凶暴で危険」というイメージも完全な誤解です。交配の歴史において、グレート・デーンやアイリッシュ・ウルフハウンドなどは徹底して攻撃性を排除するブリーディングが行われてきました。結果として家庭内では非常に大人しく、小型犬以上に物静かな「Gentle Giant(心優しき巨人)」としての気質が定着しています。真のリスクは凶暴性ではなく、「悪気のない甘えや突発的な行動が、人間を物理的に吹き飛ばしてしまう破壊力」にあるのです。