心臓は通常、右心房にある洞結節(どうけっせつ)というペースメーカー細胞から1分間に60〜100回の規則的な電気信号を送り出し、全身に血液を送り届けています。しかし、心房から心室へと電気を中継する「房室結節」やその先の伝導路が完全に遮断されると、心室への指令が一切届かなくなります。これが完全房室ブロックの病態です。
指令を失った心室は、自衛手段として自発的に電気を作り出す「補充収縮(ほじゅうしゅうしゅく)」を開始します。しかし、このバックアップ機能による房室ブロックに伴う心拍数低下は著しく、毎分30〜40回程度、場合によってはそれ以下まで落ち込みます。その結果、心拍出量が急減し、全身および脳への酸素供給が激減します。
多くの患者が自覚する完全房室ブロックの初期症状としてのめまい、ふらつき、極度の倦怠感、息切れは、まさに脳や筋肉への血流不足から生じる警告サインです。さらに危険なのは、補充収縮の発生が数秒間遅延したり、一時的に停止したりする局面です。これにより脳血流が数秒以上途絶すると、意識消失発作や全身の痙攣(けいれん)を引き起こすアダムス・ストークス症候群を発症します。
臨床現場の救急搬送データでも、アダムス・ストークス発作による転倒で頭部外傷や骨折を負って初めて発見される事例が頻発しています。発作が数分以上続けば、不可逆的な脳障害や心停止へと直結するため、「ただの一時的なめまい」と軽視することは命取りになります。