『落陽』を語る上で欠かせないのが、作詞を担当した岡本おさみと、メロディを紡ぎ出した吉田拓郎の稀有な信頼関係です。この楽曲の原型は、アルバム『伽草子』制作後の1973年、岡本が北海道をひとり旅した際のスケッチブックに記されたメモにありました。
自著や当時の関係者の回想録によると、岡本は北海道の苫小牧港から仙台へ向かう太平洋フェリーの船内で、実際にサイコロ賭博に興じるひとりの男を目撃しました。「女房を質に入れてでもサイコロを振る」と言わんばかりの退廃と、港を離れる船から見えた夕陽の美しさ。その強烈なコントラストを言葉に落とし込んだ手記を読んだ拓郎は、瞬時にアコースティックギターを手に取り、わずか数分で激しく哀切なメロディを書き上げたと伝えられています。
拓郎本人が過去の特番インタビューで「おさみの書く詞には現場の匂いと風があった。理屈抜きで指が動いてメロディが溢れ出た」と振り返っている通り、机上の空論ではない「放浪者の生々しい吐息」が宿っていたからこそ、聴き手の内臓を揺さぶる傑作が結実したのです。