紙巻きタバコから加熱式タバコへと移行した人の多くは、「加熱式ならタールが出ないから体に優しい」「ヤニが出ないから安全」というイメージを抱いています。しかし、2026年現在の科学的検証において、この言説には重大な誤解が含まれていることが明らかになっています。
加熱式タバコはタバコ葉を燃焼させず、約200〜350度の低温で電気加熱することでエアロゾル(蒸気)を発生させます。燃焼を伴わないため、炭化したススや一酸化炭素、タール全体の重量自体は紙巻きタバコと比較して最大90%前後低減されていることは事実です。大手タバコメーカーの公式分析資料でも、主要な発がん性物質の含有量が大幅に減弱しているデータが提示されています。
しかし、国立がん研究センターや日本呼吸器学会の見解は極めて慎重です。第一に、「低減されている」ことと「安全である」ことは同義ではありません。タールに含まれる発がん性物質には「これ以下の量なら安全」という安全域(閾値)が存在しない成分が多く、たとえ9割カットされたとしても、残る1割に暴露し続けることでDNA損傷リスクは確実に蓄積されます。
第二に、見落とされがちなのがニコチン含有量は紙巻きタバコとほとんど変わらないという点です。国内外の分析調査によると、アイコス(IQOS ILUMA等)、プルーム(Ploom X)、グロー(glo hyper)などの加熱式タバコから吸引されるニコチン量は、標準的な紙巻きタバコ(タール6〜10mgクラス)と同等の1本あたり約1.0〜1.5mg前後に達することが確認されています。
すなわち、加熱式タバコに切り替えても、ニコチンによる血管収縮・心血管疾患リスクおよび依存性の強さは何ひとつ軽減されていないのが現場の実態です。加えて、タールが大幅にカットされたことで煙特有の嫌な臭いや喉への刺激がマイルドになり、かえって1日の吸引本数が増加してしまう「過剰摂取トラップ」に陥るケースも医療現場から数多く報告されています。
なお、日本国内で流通しているリキッド充填型の電子タバコ(VAPE)は薬機法の規制によりニコチンを含まない製品が基本ですが、蒸気発生溶剤(プロピレングリコールや植物性グリセリン)を高温加熱した際に微量のアクロレインやホルムアルデヒド等の有害アルデヒド類が生成される可能性が指摘されており、完全無害な代替品とは言い切れません。