東京大衆歌謡楽団の演奏を初めて聴いた人の多くが驚かされるのは、ボーカル・高島孝太郎氏の完璧なピッチと澄み渡るベルカント唱法、そしてアコーディオン、ウッドベース、バンジョーが織りなす極めて精緻な伴奏技術です。ネット上やコンサート会場のロビーでは「東京藝術大学や桐朋学園大学の出身ではないか」「全員が幼少期から英才教育を受けた音大卒のエリート集団」といった言説がしばしば語られてきました。
取材データおよび過去のインタビュー記録を精査した結果、高島4兄弟は全員、音楽大学の出身ではありません。長男の孝太郎氏をはじめ、メンバーの誰もが大学の音楽学部や専門の音楽アカデミーで体系的なクラシック教育を受けた経歴を持たないことが確認されています。
長男の孝太郎氏は一般の高校を卒業後、上京してファッションやデザイン関連の専門学校・進路を模索していた時期があり、当初から声楽家を目指していたわけではありませんでした。次男の雄次郎氏もアコーディオンを手にしたのは20代に入ってからであり、教則本や当時のSPレコードの音源を聴き込みながら完全に独学で運指と蛇腹(ベローズ)のコントロールを習得しました。三男の龍三郎氏、四男の圭四郎氏も同様に、兄たちの背中を追いながら実践の中で楽器の奏法を体得していった経歴を持っています。
彼らが「音大出身」と誤認される背景には、東海林太郎や藤山一郎といった昭和初期の正統派歌手が東京音楽学校(現・東京藝術大学)出身であった史実と、高島兄弟の演奏が醸し出す格調高いアカデミズムが重なり合っている点にあります。学歴という看板に頼ることなく、SPレコードの原音に徹底して向き合い、泥臭い路上演奏で鍛え上げられた技術こそが、彼らの精緻なサウンドの正体です。