キメラアント編の構造を読み解く上で極めて重要なのが、蟻の王メルエムとジャイロの強烈な対比関係です。冨樫義博氏は、この二人のキャラクターを通じて「種族」と「心」の逆転劇を描き出しました。
メルエムはキメラアントの頂点として誕生し、当初は人類を家畜と見下す絶対的な捕食者でした。しかし、盲目の少女コムギとの軍儀を通じて「人間的な愛や尊厳、他者を慈しむ心」を獲得し、最期は人間以上に穏やかな魂へと昇華していきました。
対するジャイロは、人間として生まれながら他者からの愛を一切知らず、人間社会から完全に拒絶された存在です。蟻に転生したことで生物としての強靭な肉体を手に入れた彼は、迷うことなく「世界を憎悪する怪物」としての道を突き進みます。「人間になろうとした蟻(メルエム)」と「蟻となって世界を滅ぼそうとする元人間(ジャイロ)」という構図は、キメラアント編が持つテーマの深淵を示しています。