「愛犬の歯石除去で死亡事故が起きる」という噂は、決して根拠のない都市伝説ではありません。実際に日本国内の動物医療現場において、処置中または処置直後に心肺停止に陥り、そのまま命を落とす事例は報告されています。
しかし、誤解してはならない決定的な事実があります。処置の器具で歯を削ること自体が直接の死因になるわけではありません。問題の本質は、歯周ポケットの奥深くまで安全に器具を入れて処置するために不可欠とされる犬の歯石除去に伴う全身麻酔のリスクにあります。
人間であれば「口を開けてじっとしていてください」という指示が通るため、部分麻酔や無麻酔で歯石を除去できます。しかし、犬は鋭利なスケーラーや超音波機器の音と振動に恐怖を感じ、激しく暴れてしまいます。口腔内の粘膜や舌を傷つけず、気道への細菌混入を防ぎながら確実な処置を行うには、気管挿管を伴う全身麻酔が医学的な世界標準です。この麻酔処置という極めて高度な生体介入において、稀に予測困難なトラブルが発生することが死亡事故の正体です。