樋口可南子の女優としてのキャリアを語る上で欠かせないのが、観る者の涙を誘った珠玉のヒューマンドラマ作品群である。なかでも映画『明日の記憶』で見せた演技は、今なお多くの映画ファンの胸に深く刻まれている。若年性アルツハイマー病に侵されていく夫を支える妻役を熱演し、日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞。夫婦の絆と葛藤を、言葉を超えた表情の機微で描き切り、日本中を深い感動で包み込んだ。
また、小泉堯史監督による映画『阿弥陀堂おだより』で見せた、都会の狂気から離れ美しい奥信濃の自然の中で心を取り戻していく女性の姿も忘れがたい。静けさの中に宿る芯の強さ。彼女がスクリーンに登場するだけで、その映画の風景全体が深みを増す。まさに邦画界の名演として歴史に残る瞬間だった。