物語のクライマックス、夜明けの光を浴びて肉体が崩壊しつつあった鬼舞辻無惨。彼が自らの肉体を巨大な赤子の肉塊に変えてまで足掻いた最期の瞬間、炭治郎の運命は最悪の暗転を迎えます。無惨は消滅の間際、心停止していた炭治郎の遺体に己の全血液と残留思念を注ぎ込み、自らの夢である「太陽を克服する鬼の王」の器として炭治郎を選び取ったのです。
炭治郎が鬼化した理由は、無惨の強烈な生存本能と遺伝的執着にありました。炭治郎は日の呼吸の適性を持ち、なおかつ太陽の光を完全に克服した妹・禰豆子と同じ血を引いています。無惨にとって炭治郎は、千年間渇望し続けた「日光に焼かれない完全無欠の生物」へと至る最後の希望でした。
事実、鬼と化した炭治郎は即座に太陽の光を克服し、赫刀による斬撃すら通用しない圧倒的な再生能力を発揮。骨の触手や衝撃波を放つ怪物となり、生き残った隊士たちに牙を剥きました。この絶望的な事態を覆したのは、奇跡の連鎖でした。
人間に戻った禰豆子が必死に炭治郎を抱きしめ、どれほど傷つけられても「お兄ちゃん」と呼びかけ続けたこと。そして、栗花落カナヲが胡蝶しのぶから託されていた「鬼を人間に戻す薬」の最後の予備を、己の視力を代償にして炭治郎の体内へ打ち込んだこと。精神の深淵において無惨の甘言を振り払い、死者たちの無数の手が炭治郎の背中を押し上げたことで、彼は「鬼の王」から再び一人の人間へと回帰しました。
公式特番や声優インタビューにおいて、炭治郎役の花江夏樹氏は「炭治郎の叫びは常に自分に向けられたものではなく、誰かのために張り裂けそうになる声」と語っています。鬼化の場面で見せた獣のような唸り声と、精神世界で禰豆子の呼びかけに反応した際の脆く震える息遣いの対比は、炭治郎の内面に眠る人間性の強靭さを鮮烈に証明していました。