この店を唯一無二の存在に昇華させているのが、店名にも冠された「民芸」の哲学だ。大正から昭和にかけて思想家・柳宗悦らが提唱した「民藝運動」。名もなき職人が生み出す実用的な日用品の中にこそ真の美が宿るという「用の美」の思想が、この店舗の内装には色濃く息づいている。
フロアを埋め尽くすテーブルや椅子、調度品の数々は、職人が手作業で彫り上げた本物の松本民芸家具である。深く落ち着いた漆黒の木肌、使い込まれることで丸みを帯びた肘掛け、カチリと心地よい音を立てる重厚なカトラリー。これらが暖色の間接照明に照らされ、まるで昭和の文豪の書斎に迷い込んだかのような贅沢な静寂を醸し出す。
使い捨てのファストカルチャーとは対極にある空間美。手仕事の温もりに包まれながら食事を待つ時間は、デジタル社会でせわしなく生きる現代人にとって、至福のリセットボタンとなるに違いない。