1974年の記憶が、なぜ約40年の時を経た2013年に名曲へと結実したのか。その直接の引き金となったのは、2013年5月5日に東京ドームで開催された長嶋茂雄氏と松井秀喜氏の国民栄誉賞授与式でした。
脳梗塞で倒れ、右半身に重い麻痺を抱えながらも、懸命なリハビリを重ねてファンの前に堂々と立ち、ぎこちない右手で精一杯のガッツポーズを見せた長嶋氏。テレビ中継でその不屈の姿を目撃した桑田佳祐は、言葉を失うほどの衝撃を受けたと当時のメディア取材やラジオで語っています。「あの人はギブアップしたわけじゃない」という歌詞の核心部分は、まさに病魔と闘いながら尊厳を保ち続ける長嶋氏への最大級の畏怖と敬意から生まれたフレーズです。
さらに重要なのは、この時期が桑田佳祐自身にとっても「人生の再起」の季節であったという事実です。サザンオールスターズは2008年の「真夏の大感謝祭」をもって無期限活動休止に入り、2010年には桑田自身が食道がんの手術と過酷な闘病を経験しました。死の恐怖をくぐり抜け、音楽の現場へ奇跡の復活を果たした桑田にとって、障害を抱えながらもグラウンドに仁王立ちする長嶋氏の姿は、単なる懐古の対象ではなく、「己の老いと傷を受け入れ、なお前を向いて生きる男の覚悟」として胸に突き刺さったのです。
長嶋茂雄氏のリスペクトを通じて描かれたのは、若き日の憧れだけではありません。病や挫折を経験し、人生の黄昏を意識し始めた大人だからこそ理解できる「生への執着」と「潔さ」が、この制作背景には幾重にも折り重なっています。