巣鴨湯 リニューアルの経緯を辿ると、そこには後継者不足や設備の老朽化に直面していた下町銭湯の起死回生のドラマがあります。経営難から一時休業を余儀なくされていた同施設を蘇らせたのは、数々の名作銭湯の再生を手掛けてきた建築家・今井健太郎氏の設計チームと、銭湯文化を次世代へ継承しようとする若き運営陣の熱情でした。
今井氏が提示したコンセプトは「現代の湯治場」。その象徴が、床一面に敷き詰められた畳敷き浴室の魅力です。採用されているのは、特殊な樹脂加工が施された防菌・防カビ・防滑仕様の「洗える畳」。濡れた足裏でも滑りにくく、高齢者や小さな子どもが転倒するリスクを最小限に抑える安全設計でありながら、日本人がDNAレベルで心地よいと感じるクッション性と温もりをもたらします。
「冬場でも床から冷気が伝わってこないため、足元が冷えない」「桶を置いた時の乾いた反響音が抑えられ、浴室全体が静寂に包まれる」という利用者の証言通り、畳は音響的にも静穏な環境を作り出しています。伝統的な銭湯の情緒を守りつつ、最新の建築素材を融合させることで、日常の喧騒から隔絶された没入感を創出することに成功した好例です。