漫画『善悪の屑』の実写映画化プロジェクトは、カモ(鴨ノ目武)役に新井浩文、相棒のトラ(島田虎信)役に林遣都を配し、2019年中の全国公開を目指して着々と進行していました。メガホンを取ったのは、『不能犯』や『貞子vs伽椰子』などエッジの効いたサスペンスやホラーで定評のある白石晃士監督。原作の生々しいバイオレンス描写と被害者の無念を晴らす復讐劇をどこまでスクリーンで再現できるか、映画関係者の間でも屈指の注目作でした。
しかし、公開に向けたプロモーションが本格化しようとしていた2019年2月1日、事態は暗転します。主演の新井浩文が自宅で出張マッサージ店の女性従業員に対する強制性交の疑いで警視庁に逮捕されたのです。事件の一報が駆け巡った直後、配給を担当していた日活は協議に入り、同月8日、正式に「事態の重大性に鑑み、映画『善悪の屑』の公開を中止する」と発表しました。
過去の日本映画界においては、出演者の不祥事に対して「該当シーンのカット」や「代役を立てての追加撮影」によって公開に漕ぎ着けた前例も少なくありません。しかし、本作においてその選択肢は完全に絶たれました。事件の内容が性暴力という重大な刑事事件であったこと、そして何より新井浩文が作品の屋台骨である「主役」を務めていたことが決定打となりました。法秩序の外側で凶悪犯を断罪する「復讐屋」という役柄と、演者本人が起こした現実の凶悪事件との間に生じる倫理的矛盾は、いかなる編集や弁明をもってしても埋められないほど深かったのです。