華やかな成功譚の裏で、元日本代表選手が詐欺被害に遭ったり、投資トラブルや刑事事件などの不祥事で紙面を騒がせたりするニュースが後を絶ちません。なぜ、トップレベルまで上り詰めたエリート選手たちが、第二の人生で躓いてしまうのでしょうか。そこにはスポーツ心理学や社会学で指摘される根深い構造的原因が存在します。
最大の要因は、「アスレチック・アイデンティティ(競技者としての自己同一性)」の喪失です。幼少期から「サッカーが上手い自分」として周囲に称賛され、競技のことだけを考えて生きることを許されてきた選手は、引退と同時に自身の存在価値を見失い、強烈な空虚感や燃え尽き症候群に襲われます。この喪失感を埋めるため、未経験のビジネスや怪しげな儲け話に手を出してしまう心理的傾向が研究でも確認されています。
さらに深刻なのが、世間知らずな元選手を狙う「悪質な取り巻き」の存在です。元代表選手の手記や関係者の告白によると、引退直後には「元代表のネームバリューで飲食店を出そう」「未公開株の特別な話を回す」といった甘い誘い文句が無数に持ち込まれます。社会経験が乏しく、契約書を精読する習慣を持たない選手が、信頼していた友人や知人に名義を貸してしまい、数千万円から億円単位の負債を背負わされるケースは氷山の一角です。
長年培ってきた「勝負師としての勘」や「過剰な自信」がビジネスの場面で裏目に出てしまうことも少なくありません。ピッチ上での直感的なリスクテイクは優れた武器になりますが、契約法務や財務管理が求められる実社会において、根拠のない自信は致命傷となります。栄光に包まれた選手ほど、「誰かに頭を下げて一からビジネスを学ぶ」という心理的ハードルを越えられないまま孤立を深めていくのです。