ネット上の考察では「キロランケ=極悪の裏切り者ユダ」として短絡的に語られがちですが、作品を最終巻まで通読したファンであれば、この配役が持つもう一つの深い意味に気づくはずです。
聖書におけるユダの裏切りは、見方を変えれば「イエスが十字架にかかり、人類を救済するための絶対に必要な役割(神の計画の完遂者)」でもありました。キロランケもまた、単に私利私欲で杉元やアシㇼパを裏切ったわけではありません。彼はかつてウイルクと共にロシア皇帝暗殺に関わった革命の闘士であり、極東の少数民族の自立という巨大な大義を最後まで背負い続けていました。
アシㇼパに父の真実と民族の戦いを思い出させるためには、一度平穏な旅の枠組みを壊し、樺太の地へと連れ出す必要があったのです。ユダという役回りを与えられながらも、彼自身には彼なりの純粋な殉教精神があった――この多層的なキャラクター造形こそが、『ゴールデンカムイ』が傑作と称される所以です。