水が張られた一升桝のような小さな田んぼ一枚一枚に、それぞれ満月が映り込む奇跡の絶景「田毎の月」。作品の核となるこの美しい風景を撮影するため、ロケ隊は長野県千曲市棄老山(姨捨)の棚田に数ヶ月にわたり潜伏した。CG全盛の時代において、是枝組は徹底して「本物の光」にこだわったという。
未公開の撮影ログによれば、満月の夜、水面に月が正しく反射するわずか数十分間を狙うため、キャストとスタッフは氷点下近い寒さのなかで何時間もじっと息を潜めて待機した。役所広司が冷たい水に素足を浸しながら月を見上げる緊迫のシーンでは、現場全体が静寂に包まれ、誰も息をすることすら忘れるほどだったという。このリアルな質感こそが、画面越しに観客の胸を打つ最大の要因だ。