1953年(昭和28年)から1954年にかけて3部作として公開された映画『君の名は』は、日本のエンターテインメント史上に残るメガヒット作です。東京大空襲の夜、数寄屋橋の上で出会った後宮春樹(佐田啓二)と氏家真知子(岸惠子)が、互いの素性も知らぬまま半年後の再会を約束し、運命のいたずらに翻弄され続ける物語は、日本中を涙と興奮の渦に巻き込みました。
映画に先駆けて放送されたNHKのラジオドラマ版では、「番組が始まると銭湯の女湯から客が消える」と語り草になるほどの聴取率を記録。その熱気を受け継ぐ形で映画化された本作において、銀幕に登場した岸惠子の美貌と凛とした存在感は、まさに時代のアイコンとして完璧な説得力を持っていました。
当時、松竹の若手看板女優として頭角を現していた岸惠子は、この氏家真知子役で国民的スターの座を不動のものとします。ショールを頭から深くかぶり、首元で交差させて端を肩の後ろへ流す「真知子巻き」は、映画の公開と同時に全国津々浦々の女性たちへ瞬く間に波及していきました。