地獄と化した蒼龍の艦橋で、最後まで動かなかった男がいる。艦長の柳本柳作大佐だ。温厚な人柄と卓越した操艦技術で部下から絶大な信望を集めていた柳本艦長は、艦の命運が尽きたことを悟ると、総員退去を命じた後も自らは羅針艦橋に留まり続けた。
「艦長、脱出してください!」駆けつけた乗員が叫び、無理やり腕を引こうとしても、柳本は静かに首を横に振るばかりだった。燃え盛る艦橋で、部下たちの脱出を見届けるように直立不動で敬礼を続けるその姿は、多くの生還者の証言によって涙とともに語り継がれている。山口多聞が飛龍とともに海に沈んだのと同様、指揮官としての全責任を背負い、愛艦と運命を共にした柳本の姿は、帝国海軍の精神性と悲劇性を象徴する一幕として歴史に深く刻まれている。