ペニシリン系抗生物質は、細菌の細胞壁合成を阻害して破壊するβ-ラクタム系抗菌薬の代表格です。ヒトの細胞には細胞壁が存在しないため、病原菌だけを効率よく攻撃できる安全性の高い抗菌薬として位置づけられています。内科、小児科、耳鼻咽喉科、皮膚科、歯科など日常診療で最も頻繁に用いられる薬剤群の一つです。
臨床現場で処方されるペニシリン系抗生物質の種類一覧を見ると、用途や細菌への耐性に応じていくつかのグループに分類されます。
経口薬として最も広く処方されているのがアモキシシリン効果を主軸とした製剤です。代表的な処方薬であるサワシリンカプセル(一般名:アモキシシリン)は、胃酸に強く腸管からの吸収率が約80%と高いため、溶連菌感染症、中耳炎、副鼻腔炎、歯周組織炎、さらにはヘリコバクター・ピロリ除菌治療の併用薬として幅広く活躍しています。
また、細菌が産生するペニシリン分解酵素(β-ラクタマーゼ)に対抗するため、酵素阻害剤のクラブラン酸を配合した複合製剤がクラバモックス(小児用ドライシロップ)やオーグメンチンです。これにより、通常のペニシリンが効きにくい耐性菌(インフルエンザ菌や黄色ブドウ球菌など)による難治性の中耳炎や呼吸器感染症に対しても強力な殺菌力を発揮します。
さらに注目すべきは、梅毒治療薬としてのペニシリンの決定的な役割です。梅毒の原因菌である梅毒トレポネーマは、ペニシリンに対する耐性を獲得していません。日本では2021年に持続性ペニシリン筋注製剤(ベンザチンベンジルペニシリン水和物=製品名:ステルイズ)が承認され、現在では早期梅毒なら単回投与で治療が完了するなど、国際標準の治療体制が確立されています。